吉村昭さんが書いた「朱の丸御用船」を読みました。
タイトルにもなっている朱の丸御用船とは御用米船というもので江戸幕府が所有している土地から収穫した米を運ぶための船のことです。
この本を読んでいて最初に僕が思ったことは推理小説ぽいなということです。
ストーリー展開としてはドラマ「古畑任三郎」の展開が似ています。
最初に漁民たちがどの様な盗みを行ったかを見せ、その真相に迫っていくスタイルです。
犯行が漁村の外部に漏れ、幕府によって犯行が暴かれもしかしたら裁かれるかもしれないという不安が物語が進むにつれて増していきます。
江戸の末期、乗組員が既にいない難破した御用米船から米をひっそりと盗み出した波切村の漁民達。盗みは海の上で行われ、盗んだ後の御用米船は沈みやすいように細工したため、完全犯罪になるはずでした。しかしある日一通の手紙が村に届いたことにより、村は大きな騒動に巻き込まれていくというのがこの本のあらすじです。
まずそもそもの大前提として漁民達は難破船からの盗みを海の恵みとして悪いとは思っていないというところです。
流石に御用船から盗むときは幕府からの弾圧が頭をかすめ盗みを躊躇しますが、結局は海からの恵みとして盗みを実行することになります。
この盗みを行うと決定したシーンは日本の多くの会社でみられる光景に似ているんです。
幕府の船だからと盗みを働く決定を下せない中、トップが許可をすれば大丈夫だろうと反対の声が上がらない所がそっくりなんです。
盗みを実行する漁民たちは幕府の船と聞いただけで背筋に冷たいものが走ると表現されているにも関わらずですよ?
とはいってもこの時代、他の地域に移り住むこともできず、基本的には産まれた土地で育ち生活し死んでいくしかなかった時代です。
村という組織から孤立した場合、生きていけません。そうなると意見をぶつけるという行為は自分の死に直結すると考えることができます。
現代の日本だと学校でのいじめに近い所があるかもしれませんね。
自分の暮らしている世界が狭いコミュニティの中で完結し、そこで自分を否定されてしまったら生きていけない感覚に陥る感じです。
御用船から大量の米を手に入れ、村全体が活気づいたのも束の間、盗みを奉行所(現代の警察)に告発するという脅しの手紙が村に届き始めました。
盗みがバレるはずがないと最初は強気の漁民たちですが、何度も脅迫の手紙が届くにつれて噂は村全体に広まり、だんだんと不安が村全体を覆います。
そして最後にはなぜ御用船が難破したのかという、そもそもの原因にまで迫る話になっています。
海産物や難破船からの盗みから生計を立てることを当たり前にしていた漁村が、一つの事件をキッカケに崩れていく様子は見ていてハラハラドキドキします。
歴史の教科書に載るような人物は誰一人として出てきませんが、一般人の価値観を知ることができる面白い歴史小説です。
コメント